製造業のAIエージェント活用事例6選【結論:社内ナレッジから始める】

こんにちは。GMOプライム・ストラテジーの森岡です。
製造業でも、日立やトヨタのように、AIエージェントを業務に取り入れる企業が出てきました。ただ、2026年版ものづくり白書では、ベテランのノウハウの見える化が進まない理由として、68.6%が、知識や経験を文書などの形にするのが難しいことを挙げています(出典:MONOist)。AIエージェントを役立てられるか否かは、この「知識の壁」を越えられるか、だと思います。
今回は、以下のような疑問に答えます。
製造業のDX推進を任された人社長から『うちもAIエージェントで何かできないか』と言われた。でも、製造業で何ができるんだろう。図面も製造条件も外に出せないし、何から始めればいいのか…。
- 製造業のAIエージェントとは?生成AI・RPAとの違い
- 製造業のAIエージェント活用事例6選(すべて出典リンクつき)
- 失敗しにくい始め方4ステップ(注意点つき)
弊社はWordPressなどのCMSを高速、セキュアに動作させる実行環境「KUSANAGI」を開発している会社です。2026年6月からは、法人向けRAG「GMO AI RAG」も提供しています。有償オプションの「チューンドRAG」は、日本語の検索精度(F1スコア)で既存アルゴリズムの約1.4〜1.8倍を記録しました(出典:弊社プレスリリース、2026年6月30日)。
今回は、AIエージェントに社内の知識を渡す側の立場から、要点をまとめました。


GMOプライム・ストラテジー株式会社 マーケティング部
森岡 佑亮
フリーランスとして6年間、あらゆる業種のSEO・コンテンツマーケティングに従事。
内部SEO対策やデータドリブンな施策立案を得意とする。
現在はGMOプライム・ストラテジーにて、KUSANAGIの分析・集客・コンテンツ戦略を担当。
製造業のAIエージェントとは?【自分で調べて段取りまで進めるAI】


製造業のAIエージェントとは、「目的を伝えると社内の文書やシステムを自ら調べ、手順を組み立てて業務を進めるAIのこと」です。
例えば「3号機のエラーの原因を調べて」と頼むと、保全記録から原因と点検手順を探し、部品の在庫まで確かめてくれます。
仕組み:LLM(頭脳)・ツール連携(手足)・社内ナレッジ(知識)の3つで動く
AIエージェントは、次の3つで動きます。
- 頭脳:AIモデル(LLM:大規模言語モデル)
- 手足:MES(製造実行システム)や在庫システムなどとの連携
- 知識:作業手順書やトラブル履歴など、答えの根拠になる社内ナレッジ
汎用のAIには、自社の手順書やトラブル履歴といった「知識」がありません。なので、社内のことを聞いても的外れに答えがちです。
そこで使われるのが「RAG(検索拡張生成)」。ざっくり言うと「AIに社内資料をカンニングさせる仕組み」です。RAGを作っている立場から言うと、、、答えの質は頭脳の性能より「何を読めるか」で決まると感じています。
RAGの仕組みは、「社内データがそのまま回答になる『RAG』で、汎用AIを自社専用のプロに変える方法」で詳しく解説しています。
この「知識」を担うのが、弊社の「GMO AI RAG」です
GMO AI RAGは、社内文書をもとに、社員やAIエージェントの質問に答える法人向けソフトウェアです。MCPサーバー機能を標準搭載しているので、CopilotやClaudeなどのAIからも社内ナレッジを呼び出せます。AIエージェントを一から作らなくても、今のAIを「自社のことを知っているAI」にできるわけですね。
※MCPとは、AIと外部のツールやデータをつなぐ共通規格です。


生成AIとの違い:答えを返すだけでなく、次の作業まで進める
生成AIは質問に答えて終わりですが、AIエージェントは答えをもとに次の作業を判断し、ツールを使って実行まで進めます。
例えば「ポンプの点検手順は?」と聞くと、生成AIは手順を答えて終わり。AIエージェントなら、点検の依頼や報告書の下書きまで進めてくれます。
※最近はChatGPTなどにもエージェント機能が加わり、両者の境目は薄れつつあります。
RPAとの違い:決まった手順から外れた「例外」にも対応できる
RPAは決められた手順しか実行できませんが、AIエージェントは状況に応じて手順を組み替え、例外にも対応できます。
例えば、いつもと違う書式の注文書が届くと、RPAは処理が止まりがちです。AIエージェントなら中身を読み取り、必要な項目を拾えます。
表にまとめると、次のとおりです。
| RPA | 生成AI(チャット型) | AIエージェント | |
|---|---|---|---|
| 得意なこと | 決まった手順の繰り返し | 質問への回答、文章の作成 | 目的に向けて調べ、段取りし、実行する |
| 判断 | しない(ルールどおりに動く) | 答えるが、次の行動は人が決める | 状況を見て、次の行動を選ぶ |
| 製造業での例 | 受注データの転記 | マニュアルの要約 | 異常の原因調査→点検手順の提示→部品在庫の確認 |
製造業のAIエージェント活用事例6選【始めやすい順に紹介】


いま製造現場で成果が出始めているAIエージェントは、社内の文書やデータを調べて人に提案する「助言型」が中心です。ただし、業務によって必要なデータと始めやすさは大きく違います。
| 事例 | 主に使うデータ | 始めやすさ | エージェントの型 |
|---|---|---|---|
| ①トラブル対応 | 過去の対応記録、マニュアル | ◎(文書が既にある) | 助言型 |
| ②設計・技術相談 | 設計書、法規、不具合報告 | ◎(文書が既にある) | 助言型 |
| ③安全・教育 | 作業マニュアル、過去の災害事例 | ◎(文書が既にある) | 助言型 |
| ④生産計画 | 受注・在庫・設備の情報(ERP・MES) | ○(システム連携が必要) | 計画案を出す助言型 |
| ⑤予知保全・外観検査 | センサー、画像、保全記録 | △(機器とデータ集めが先) | 助言型 |
| ⑥異常対応の連携 | 複数のシステムのデータ | △(連携と承認の設計が必要) | 実行寄り(人の承認つき) |
※始めやすさは、必要なデータとシステム連携の量から弊社で整理した目安です。助言型は「AIが調べて提案し、操作は人が行う型」、実行型は「人の承認を経て、AIがシステムの操作まで進める型」です。
迷ったら、「◎」の業務から選ぶのが近道かなと思います。社内の文書だけで、すぐに試せるからです。
事例①:トラブル対応|過去の対応記録から原因と対処を示す(日立)
日立製作所は、大みか事業所の品質保証業務にAIエージェントを適用し、実証を通じて現場で使える精度まで高めました。熟練者が「どんな言葉で、どの順番で」過去の事例を探すかを、AIに再現させたのが特徴です。
実証では、トラブル事例を探す時間が約9割、初報レポートの作成時間が8割以上減りました。熟練者が不在でも、トラブル対応の初動を進められることが確認されています(出典:日立製作所 ニュースリリース、2025年6月26日)。
事例②:設計・技術相談|過去の設計書や法規を横断して答える(トヨタ)
トヨタ自動車は、パワートレーンの開発で「O-Beya」というAIエージェントの仕組みを使っています。振動や燃費など、9つの専門エージェントの回答を1つにまとめて返す「マルチエージェント」型です。
知識のもとは、過去の設計報告書や最新の法規制情報、ベテランの手書きの文書。2024年1月に運用が始まり、2024年11月時点で約800人のエンジニアに公開されています(出典:日本マイクロソフト ニュースセンター、2024年11月20日)。
※O-Beyaは、社内の文書を検索して答えるRAGの仕組みで作られています(同記事)。
事例③:安全・教育|危険予知(KY)資料や多言語の作業手順書を作る
三菱電機ビルソリューションズは、昇降機の作業現場向けに、危険予知(KY)アプリ「KY-Support」を作りました。作業マニュアルや過去の災害事例をもとに、予想される危険をAIが10分類で示します。
潜在的なリスクのうち、AIが洗い出せた割合(網羅率)は9割超。2026年4月から順次、全社へ導入すると発表されています(出典:三菱電機ビルソリューションズ ニュースリリース、2026年3月26日)。
※厳密には生成AIのアプリですが、社内の文書をもとに人へ提案する「助言型」の例として紹介しています。
なお、作業手順書を多言語に訳し、外国籍の作業者の教育に使うのも、生成AIの得意分野です。
事例④:生産計画|受注・在庫・設備の状況から計画案を組み直す
日立製作所は、注文の変更や納期の調整が起きたときに、計画を組み直す技術を開発しました。営業・生産管理・調達などのAIエージェントが協調し、部材の在庫や設備、許容できる残業時間まで考えて計画案を作ります。
計画案はメリット・デメリットつきで示され、最終判断は人が行います。提供は2027年中の予定です(出典:日立製作所 ニュースリリース、2026年8月27日)。
事例⑤:予知保全・外観検査|異常の検知後、点検や保全の段取りを進める
ダイキン工業は日立製作所と組み、工場設備の故障診断を支えるAIエージェントの試験運用を2025年4月に始めました。設備の図面や保全記録をもとに、故障の原因と対策を保全担当者に示します。
事前の実証では、10秒以内に、90%以上の精度で原因と対策を答えられたとされています(出典:ダイキン工業 ニュースリリース、2025年4月22日)。
※異常の「検知」は、センサーや外観検査の画像認識AIが担うのが一般的です。エージェントは、その後の「どう直すか」を受け持ちます。
事例⑥:異常対応の連携|複数のシステムをまたいで部品手配まで進める
アクセンチュアとアバナードは、マイクロソフトと組んで「エージェント型工場」を開発しました。生産ラインの稼働率が想定を下回ると、AIエージェントが生産データなどを横断して分析し、原因の候補と対応策を示します。
保全チケットの発行や予備部品の発注準備まで手伝い、最終判断は現場の担当者が持つ設計です。本格提供は2026年後半の予定です(出典:アクセンチュア ニュースリリース、2026年5月18日)。
こうした連携を進めやすくする共通規格として、AIとツールをつなぐ「MCP」や、AI同士をつなぐ「A2A」も登場しています。
製造業のAIエージェントの始め方4ステップ【社内ナレッジ活用から小さく】


手順書やトラブル履歴などの文書が既にある業務を1つ選び、人が最終判断する助言型で小さく試すのが近道です。流れは「業務を決める→文書を集める→助言型で試す→広げる」の4ステップ。
理由は、文書が既に社内にあり、センサーの設置のような準備がいらないから。また、白書によると、データを「取得」している企業が66.0%なのに対し、「効果」を得ている企業は43.9%にとどまります(出典:MONOist)。データ集めから入るより、効果が見えやすい業務から始めたほうが、社内の納得も得やすいはずです。
手順①:対象業務を1つ決め、機密データをどこで扱うかを決める
まずは、AIに任せる業務を1つに絞ります。例えば、品質保証への問い合わせの一次回答や、設備トラブルの切り分けなどです。効果を測る指標(回答までの時間、ベテランへの問い合わせ件数など)も決めておきましょう。
次に、図面や製造条件などの機密データをどこで扱うかを、社内のルールに照らして決めます。選択肢は、ざっくり次の3つです。
- 外部のAIサービスを使う:手軽だが、データは社外に送られる
- 自社のクラウド環境で動かす:データの置き場所や権限を管理しやすい
- オンプレミスとローカルLLMで動かす:データを社外に出さずに運用できる
※ローカルLLMとは、自社の環境の中で動かすAIモデルのことです。
手順②:AIに読ませる社内文書を集め、部署ごとに参照範囲を分ける
作業手順書や設備マニュアル、トラブル報告書、品質記録など、AIに読ませる文書を集めます。
「うちの文書はバラバラで、紙も多い…」と感じる方もいるはずです。でも、大丈夫です。というのも、最初は手順①で決めた業務の文書だけで足りるから。
古い版や重複を外し、紙はデジタル化すればOKです。あわせて大切なのが、部署ごとに参照範囲を分けること。品質保証と設計では、見せてよい情報が違いますよね。
文書の整え方は、「RAG導入を成功に導くデータ整備と検索精度の極意」で詳しく解説しています。
手順③:回答の根拠を確かめながら、「助言型」で期間を区切って試す
いきなり全自動を目指したくなりますが、、、まずはAIが調べて人が判断する「助言型」で試しましょう。
回答には参照した文書を示し、ベテランが答え合わせをする期間を1〜3か月ほど設けるのがおすすめです。答えが見つからないときに「わからない」と返す設定にすれば、誤回答(ハルシネーション)も減らせます。
事例①の日立でも、熟練者と一緒に質問と模範解答のペアを100件以上作り、評価の基準にしています(出典:日立製作所 ニュースリリース、2025年6月26日)。
手順④:効果が出たら、人の承認を挟んで実行型・他業務へ広げる
効果が数字で見えたら、MES・ERP・在庫システムなどとつなぎ、作業指示や発注の下書きまで任せる「実行型」へ広げます。ただし、設備を動かす、発注を確定するといった処理には、必ず人の承認を挟むこと。操作のログも残しておくと安心です。
うまくいったら、ほかの業務や工場へ広げればOKです。
GMO AI RAGなら、この4ステップをこう進められます
| 手順 | つまずきやすい点 | GMO AI RAGでの進め方 |
|---|---|---|
| ①業務と機密データの扱いを決める | 図面や製造条件を社外に出せない | オンプレミスとローカルLLMで組めば、文書を社外に出さずに運用できる |
| ②文書を集め、参照範囲を分ける | 文書が散らばり、部署ごとに見せてよい範囲も違う | Windowsファイルサーバーと標準で連携(SharePoint・Google Driveとの連携は有償オプション、Boxは開発中)。部門ごとに情報や権限を分ける「情報コレクション」機能がある |
| ③助言型で試す | 回答の精度が心配で、現場が使わない | 社内の文書をもとに回答。有償オプションの「チューンドRAG」で検索精度を高められる |
| ④連携して広げる | 今使っているAIに、社内の知識を渡せない | MCPサーバー機能を標準搭載。CopilotやClaudeなどから社内ナレッジを呼び出せる |
GMO AI RAGは、利用シーンのひとつに「製造業の技術ノウハウ継承」を挙げています。作業手順やトラブル対応の履歴を登録すれば、ベテランの知見を若手がその場で引き出せます。


製造業のAIエージェントに関するよくある質問


AIエージェントで有名なものは?
ChatGPTやMicrosoft 365 Copilotなどの汎用型と、Agentforceなどの業務特化型が有名です。
業務特化型は、SalesforceのAgentforceのように、特定の業務システムと組み合わせて使うタイプです。製造業では、トヨタの「O-Beya」のような自社専用の例や、SiemensのIndustrial Copilotもあります。
AIエージェントの欠点は?
主な欠点は、的外れな回答、誤回答(ハルシネーション)、機密データの扱い、誤操作のリスクの4つです。とはいえ、どれも始め方の4ステップで対策できます。
- 的外れな回答 → 手順②で社内の文書を読ませる
- 誤回答 → 手順③で根拠を確かめながら試す
- 機密データ → 手順①で扱う場所を決める
- 誤操作 → 手順④で人の承認を挟む
なお、導入や連携には費用と時間もかかるので、小さく試すのが大切です。
AIエージェントは製造業の仕事を奪う?
奪うのは「調べる・まとめる・転記する」作業です。最終判断、熟練の技能、安全への責任は人に残ります。
現場からは「AIに仕事を取られるのでは」という声もありますよね。ただ、事例①の日立でも、AIの役割は、熟練者がいないときに経験の浅い担当者を支えることでした。任せる作業と人が担う部分を先に決めておけば、現場の不安も減るはずです。
製造業向けのAIエージェントを提供している企業は?
大手ITベンダー、業務プラットフォーム企業、製造業特化のAI企業の3タイプがあり、目的によって選ぶ相手が変わります。
- 大手ITベンダー:日立など。自前の工場で培った知見がある
- 業務プラットフォーム企業:Microsoft、Salesforce、IBMなど。今の業務システムと組み合わせやすい
- 製造業特化のAI企業:外観検査や設計など、特定の業務に強い
選ぶ軸は、「どの業務で使うか」「データを社外に出せるか」「今のシステムやAIとつながるか」の3つです。
まとめ:製造業のAIエージェントは「社内ナレッジを読めるAI」から始めよう
というわけで、今回は以上です。製造業のAIエージェントは、社内ナレッジを読めるAIとして小さく始めるのが近道です。
- AIエージェントは、自分で調べて段取りまで進めるAI。成果が出始めているのは助言型
- 答えの質を左右するのは「社内ナレッジ」
- 始めやすいのは、文書が既にあるトラブル対応・技術相談・安全教育
- 「1業務に絞る→文書を集める→助言型で試す→承認つきで広げる」の順に進める
AIエージェントは、ベテランが現場にいるうちに始めるほど、残せる知識が増えます。今週、ベテランに問い合わせが集中している業務を1つ書き出すか、書き出さないか。その小さな差が、数年後の技術継承の差になるかなと思います。
RAGの選び方で迷ったら、「後悔しないためのRAGの選定基準とは」もどうぞ。
社内ナレッジを読めるAIを、まずは小さく
GMO AI RAGは、クラウドでもオンプレミスでも使えるEnterprise版を提供中です。料金は製品ページで公開しています。
※OSS版は2026年10月頃に公開予定です。
OSS(オープンソース・ソフトウェア)版は、初期費用・年間費用とも無料。ただし、クラウドやクラウドLLMの利用料などのインフラ費用は別途かかり、保守・サポートも別契約になります。
自社の文書と環境に合う構成は、資料で確かめてみてください。










